リスク・プレミアム戦略運用入門

銀行などで働いている金融のプロの方に向けて発信する『リスク・プレミアム運用』の教科書的ブログです。ご意見・コメントどんどんお寄せ下さいませ。

1-4 投資家から見たリスク・プレミアム戦略運用

 

本節では投資家からみたリスク・プレミアム戦略運用について考えてみたい。

 

この節のポイント

  1. 最もリスク・プレミアムの運用を積極的に行っているのは北欧の年金基金である。彼らがどのようにリスク・プレミアム運用に携わったかその経緯と成果を確認する。
  2. その後それが広く適格機関投資家及び個人投資家に受け入れられるようになった際にどのように定義が調整されてきたかという点、その理由と背景を確認する。

 

 

<本節の要約>
→ノルウェーの年金基金が始めたリスク・プレミアム戦略運用の使用法はノルウェー・モデルと呼ばれ広く全世界的に機関投資家に模倣された。
→ノルウェー・モデルはその拡大にあたりヘッジファンド代替として機関投資家に紹介される機会が多かった。
→ノルウェー・モデルに基づいたリスク・プレミアム戦略運用は全世界の機関投資家によって模倣され、急拡大していった

 

ノルウェー・モデルの登場

前節で見たように、ファクター投資が提唱された当初は運用会社などがインデックスの形で投資家の啓発活動を行っていたが、一般に広く浸透した運用コンセプトとは言いがたかった。リスク・プレミアム戦略投資が一気に世に知らしめられるきっかけとして、Ang,Goetzmann, Schaeferが著した”Valuation of Active Management  of Norwegian Government Pension Fund”がある。本論文はアクティブ運用やヘッジファンド運用を積極的に行っていたノルウェーの政府年金基金が分散投資を行っていたにもかかわらず、2008年のリーマンショック時に大幅な損失を被り、その損失に関する分析を経済学者に依頼し、作成されたものである。

この論文の重要な結論は次の2点である。

 

  • アクティブ運用の寄与率はリスク・オン、オフに関係なく低い

図表1-10はノルウェー政府年金基金のポートフォリオに対して、アクティブ運用成果が果たした役割を簡単にまとめたものである、これを見る限り金融危機以前(1998年1月~2007年12月)であろうと、金融危機を含む期間であろうと、株式のアクティブ・リスクはわずか0.30%しかない。

 

表 5 ノルウェー政府年金基金のポートフォリオに対して、アクティブ運用成果が果たした役割

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  • アクティブ・リスクの大半はファクター・リスク・プレミアムによって説明可能

さらに、アクティブ・リスクの7割がファクター・リスク・プレミアムによって説明することができるという分析結果も残している。

 

上記二つの結論が彼らの投資行動を以下のように変化させた。

  • アクティブ運用から得られる超過収益が実質的にほぼ無いのであれば、ヘッジファンドを含むアクティブ運用に投資することはあまり意味がない
  • 但し、若干ながらも存在する追加的なリターンがファクターで説明できるのであればファクター投資は積極的に行うべき
  • 結果として、アクティブ投資もしくはヘッジファンド投資からシステマティック・リスク・プレミアムの獲得を目指したリスク・プレミアム戦略運用へと梶が切られた。

 

また、アクティブ運用をファクター指数で代替することにより、下記二つの追加的なベネフィットを獲得できた。

  • これまでアクティブ運用もしくはヘッジファンド支払っていた高いフィーを削減することができた
  • マネージャーの裁量によるパフォーマンスの予想不可能性、すなわちマネージャーリスクの回避が可能となった。

 

このノルウェーのアクティブ運用、もしくはヘッジファンド運用から、リスク・プレミアム戦略運用への運用方針の変更は北欧の年金基金に非常に大きな影響を与え、その後世界に波及していく。リスク・プレミアム運用戦略は史上最速で100兆以上の運用商品となるといわれているが、ノルウェー政府基金が行った上記の大転換がなければ、現在のような状況にはなっていなかったと考えられる。

他の北欧の年金についても同様に積極的にリスク・プレミアム運用を採用していった。

スウェーデンの政府系年金基金であるAndra AP-fonden(通称AP2)は彼らが行っているヘッジファンド運用を運用ルールなどによりその収益の源泉ベースで再分類し、コストの高いヘッジファンドをやめ、リスク・プレミアム戦略運用をベースとしたマルチ・アセットポートフォリオを構築した。

デンマークの政府系年金基金であるPKAは伝統的な株式のアクティブ・マネージャーとの契約を解除し、先進国のリスク・プレミアム、新興国のリスク・プレミアム、時価総額が小さいことによるリスク・プレミアム、低ボラティリティ、モメンタム、バリューなどのリスク・プレミアム戦略運用に代替した。

 

ヘッジファンドの分類とリスク・プレミアム戦略投資による複製

 

ここで、一旦立ち止まって、アクティブ・マネージャーやヘッジファンドの運用手法を一度整理し、どの戦略がリスク・プレミアム運用戦略で複製可能か?逆にどの戦略の複製が難しいかを確認したい。以下ではヘッジファンド関係での最大の情報ベンダーであるHedge Fund Reach(以下、HFR)の分類をもとにヘッジファンドを分類する。HFRはヘッジファンドを大きく、①エクイティ・ヘッジ、②イベント・ドリブン、③マクロ、④レラティブ・バリューの4つに分類している。以下では更に細かい分類も含めて確認する。ただし、本書の投資対象ではないコモディティ関連、各カテゴリー内の戦略を組み合わせたマルチ戦略は割愛する。またFixed Incomeは投資対象が多いがまとめてFixed Incomeとして説明する。

 

<表1-11:HFRによるヘッジファンドの戦略分類>

Equity Hedge

Event Driven

Macro

Relative Value

Equity Market Neutral

Activist

Active Trading

Fixed Income - Asset Backed

Fundamental Growth

Credit Arbitrage

Commodity: Agriculture

Fixed Income - Convertible Arbitrage

Fundamental Value

Distressed / Restructuring

Commodity: Energy

Fixed Income – Corporate

Quantitative Directional

Merger Arbitrage

Commodity: Metals

Fixed Income – Sovereign

Sector: Energy/Basic Materials

Private Issue / Regulation D

Commodity: Multi

Volatility

Sector: Healthcare

Special Situations

Currency: Discretionary

Yield Alternatives: Energy Infrastructure

Sector: Technology

Multi-Strategy

Currency: Systematic

Yield Alternatives: Real Estate

Short Bias

 

Discretionary Thematic

Multi-Strategy

Multi-Strategy

 

Systematic Diversified

 

 

 

Multi-Strategy

 

 

  • エクイティ・ヘッジ戦略

株式と株式関連のデリバティブのロングとショートポジションを取ることでリターンを狙う戦略のこと。使用する定性・定量分析の手法、投資するセクター、ネットエクスポージャー、レバレッジ、資産の保有期間、投資対象とする企業のマーケットキャップ、投資対象のバリュエーションを制限・特化させるなど多様な戦略を構築することができる。ファンド・マネージャーは通常、50%以上のエクスポージャーを維持する。極端なケースでは、ロングオンリーやショートオンリーにすることもある。

 

  1. マーケット・ニュートラル

高度な定量的手法を用いて将来の価格動向や証券間の関係性などの分析を行い売買の判断を行う。通常、ネットエクスポージャーが10%の範囲内に納まるように運用される。

  1. ファンドメンタル・グロース

企業の分析によって株式市場全体と比較したときにより高い利益成長率と資本成長が期待される企業に投資をすること。

  1. ファンダメンタル・バリュー

関連性の高いベンチマークと比較してバリュエーション指標が過小評価されていて割安に放置されている銘柄に投資をする戦略。株式投資でよくみられる戦略であり、しばしば多くのキャッシュフローを生むが将来の成長性が過小評価されていたり良好な投資環境でない場合に割安に評価されていたりする銘柄に投資をする。

 

  1. ヘルスケア関連戦略

医薬品などの専門知識を持つファンド・マネージャーがヘルスケアセクター内で特定のニッチ分野での投資機会を見つけてリターンを狙う戦略である。通常、特定のセクターへのネットエクスポージャーが50%の範囲内以上になるように運用される。

 

  1. テクノロジー関連戦略

テクノロジーの専門知識を持つファンド・マネージャーが同じセクター内で特定のニッチ分野での投資機会を見つけてリターンを狙う戦略である。通常、特定のセクターへのネットエクスポージャーが50%の範囲内以上になるように運用される。

 

  1. ショート・バイアス

ファンダメンタル分析やテクニカル分析に基づいて企業を分析し、市場で過大評価されている企業を発見し、ショートすることでリターンを求める戦略。ファンドはネットショートのエクスポージャーを持つように運用される。

 

  • イベント・ドリブン

M&A、リストラクチャリング、財政難、株式公開買い付け、自社株買い、証券の新規発行、資本構成の調整などに現在関わっている、あるいは将来その可能性が高いと思われるものに投資する。

 

  1. アクティビスト

投資先企業のポリシーや事業戦略に関して影響力を持とうとして取締役会に息のかかった人を送ろうとする。あるときには、会社分割や資産売却、配当金政策や自社株買い、経営陣の変更などの提案を行う。アクティビスト戦略はその他のイベント・ドリブン戦略とは、ポートフォリオの50%以上をアクティビストのポジションにしておくことが期待されているという点で異なっている。

  1. クレジット裁定

イベント・ドリブン戦略の中でも社債に注目して投資し、より広範なクレジットマーケットに対するエクスポージャーをほとんど持たない。

  1. ディストレス・リストラクチャリング

破産手続きや市場で破産が近いと予想されていることによって、本来の価値より大幅なディスカウントで売られている会社のフィクスト・インカム商品、主に企業のクレジット商品に投資をする戦略。当戦略では、60%以上を負債で調達するが株式へのエクスポージャーを維持する。

  1. 合併裁定

当戦略では、主にM&Aに関係していている企業の株式やその株式派生商品に投資をしてリターンを求める投資戦略である。通常、ポートフォリオのポジションのうち75%以上をM&Aに関係するものに投資をする。

  1. プライベート・イシュー

非上場会社や流動性の低い株式ならびに株式関連商品(株式デリバティブ)に投資をする。当戦略ではファンダメンタル分析から企業の安全性の高い企業に投資を行い、通常50%以上を非上場証券に投資する。

  1. スペシャル・シチュエーション

個別企業の買収合併や破産、事業部門の分離や売却、資産の売却、自社株の買戻し、株主構成の変化など経営戦略に関わる重要な出来事に基づいて投資する。文字通り特殊な状況を利用する戦略。

 

  • マクロ

経済に大きな影響を及ぼす指標の動きやそれが株式、債券、通貨、コモディティ市場に与える影響を予想して投資をする。ファンド・マネージャーは主観的・客観的(システマティックな分析)、トップダウン・ボトムアップアプローチ、定量的・定性的な分析を組み合わせて投資判断を行う。

 

  1. アクティブ・トレーディング

マーケットデータの分析に基づいて、高頻度でのポジションの入れ替えやレバレッジを利用するなどアクティブにトレードを繰り返すことでリターンを得ることを目的とした戦略。

 

  1. 通貨(裁量ベース)

主に国際為替市場における関係性や影響からマーケットデータのファンダメンタル分析を行い、これに基づいて投資をする戦略(トップダウンの分析に基づくことが多い)。

 

  1. 通貨(システム戦略)

ポートフォリオの投資判断(ポジショニング)を全て数学的なモデルやアルゴリズムに基づいて行う投資戦略。通常、ポートフォリオの35%以上が特定の通貨に対してエクスポージャーを持つ。

 

  1. テーマ型裁量

マーケットデータの分析により、市場の関係性・影響の評価をアナリストやファンド・マネージャーが行い、それに基づいて投資判断をする戦略。市場の分析はトップ・ダウンで行われることが多い。

 

  1. 分散型システム戦略

ポートフォリオの投資判断(ポジショニング)を全て数学的なモデルやアルゴリズムに基づいて行う投資戦略。通貨(システム戦略)とは異なり、ポートフォリオの35%以上を特定の通貨やコモディティに対してエクスポージャーを持たせず分散投資を行う。

 

  • レラティブ・バリュー

複数の証券間の価格の関係に関して矛盾のあるものに対してポジションを取る戦略。ファンド・マネージャーは多様な定量的・定性的手法を用いたり、投資対象を広く取ったりすることで、市場価格の矛盾に基づいてリターンが期待できるポジションを取る。

 

  1. フィクスト・インカム(ソブリン)

複数の証券の価格の矛盾に基づいてポジションを取るが、そのポジションの少なくとも一つがソブリン証券であるような戦略。通常、ソブリン債同士のスプレッド、あるいは社債のリスクフリー債の間のスプレッドに注目して投資を行う。

  1. ボラティリティ

当戦略はボラティリティを投資対象としてトレードをする戦略。アービトラージ、マーケット・ニュートラル、様々な投資戦略を組み合わせ、様々なエクスポージャーを持たせて運用する。

 

  1. レラティブ・バリュー(不動産)

複数の証券の価格の矛盾に基づいてポジションを取るが、そのポジションの少なくとも一つが不動産に直接・あるいは間接的にエクスポージャーをもつ証券であるような戦略。

 

これらの戦略の中でアクティブリターンがファクター・リスク・プレミアム指数で代替可能なものがどれかを確認していきたいと思う。まず確実に代替不可能なものを分類すると。

 

  • 投資対象の流動性が低い戦略

投資対象の流動性が低すぎるものは、指数作成時のデータの信憑性がそもそも低くなりがちでるし、運用が非常に困難であるため、リスク・プレミアム戦略運用には適さない。そのようなものとして、下記戦略などが考えられる。

<ショート・バイアス(ショートは一般に取引コストが非常に高い)、ディストレスト・リストラクチャリング、スペシャル・シチュエーション、プライベート・イシュー、レラティブ・バリュー(不動産)>

 

  • ニッチセクターへの投資戦略

ニッチセクター特有の投資機会を見つけるのはファクター・リスク・プレミアムの継続性などに疑問がるために適さないと判断する。それらの投資戦略として下記戦略などが考えられる。

<ヘルスケア関連戦略、テクノロジー戦略>

 

  • 運用者の裁量が大きいもの

運用者の裁量が大きく働きすぎてしまうためにパフォーマンスの再現性が極めて低いもの。それらの投資戦略として下記戦略などが考えられる。

<アクティビスト、テーマ型裁量、通貨(裁量ベース)>

 

上記以外にも該当するものも多いと思われるが、逆にリスク・プレミアム戦略として代替しやすいものはどれだろうか。代表的なものとしてはCTA(コモディティ・トレーディング・アドバイザリー)に代表されるモメンタム戦略であろう。その理由として、モメンタム戦略は一般に取引のターンオーバーが高いため投資対象としては必然的に先物などの流動性が高いものに限定される。流動性が高いものを対象としているために、価格情報がとりやすく、システマティックなリスク・プレミアムの推定がほかの戦略に比べて相対的に容易である(これは私募の不動産ファンドの保有する不動産の値洗いが1年に1回もしくは半年に1回程度しかないことに比べると相当情報量に違いが出てくることをご理解いただけるだろう)。また、別の理由で情報量が多いものとして、企業の決算情報を使用するバリュー戦略などもファクター指数化しやすい戦略群といえる。

 

ノルウェー・モデルの 普及と発展

 

 さて、このようにファクターをパッシブに取り込むことは一部の関係者においては「ノルウェー・モデル」と呼ばれる。2009年に発表された論文に基づくノルウェー・モデルは主に北欧3国の年金基金を中心に浸透したが、その後カリフォルニア州政府職員退職年金基金(CalPERS)のような米国を代表する大手年金基金を筆頭に、カナダなどの北米の大手現金を中心にその使用が拡大してきた。現在では欧州及び米国の年金基金及び運用会社においてこのようなファクターをパッシブに取り込むような「ノルウェー・モデル」に基づいた運用が広く世界中で指導している状況である。

投資家の行動に対して、商品提供者がどのように反応したかという点であるが、「ノルウェー・モデル」に適したプロダクト提供は当初は年金にプロダクトを提供する運用会社が先行して始めたものである。一方、セルサイドでは裁量がないルール・ベースのプロダクト提供という観点から、投資銀行などもこのノルウェー・モデルに基づく運用におけるパーツとして、トータル・リターン・スワップを利用したリスク・プレミアム運用戦略を提供し始めた。運用会社に加え、投資銀行の参入により本戦略関連の市場規模が爆発的に拡大した。

なお、投資銀行がリスク・プレミアム戦略運用を説明するのに、広く使用されるのが下図である。

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さて、ところで、年金以外のバイサイドである銀行や生命保険会社などのいわゆる、機関投資家へはどのように浸透していったのであろうか?機関投資家に対しては運用会社ではなく、主に投資銀行を通じてこのようなファクター投資もしくはリスク・プレミアム戦略運用のマーケティングが行われた。なぜ機関投資家に対しては主に運用会社ではなく、投資銀行がファクター投資商品をマーケティングしたのであろうか?その理由として筆者が考えるのは2つある。

年金基金と機関投資家の違い1:負債年限が異なる

年金基金と機関投資家(特に銀行)の間の負債年限は大きく異なる。負債の関係から、年金基金は投資ホライズンが非常に長い。例えば、負債に合わせて25年もしくは50年程度のスパンで投資対象および投資成果を計るというのが一般的な年金基金の投資スタンスである。一方で銀行や生命保険等の機関投資家、特に銀行はその負債のデュレーションが3年から5年と年金基金に比べて短いため、ある程度長期的にはプラスのリターンが出てくるであろうという前提での投資が非常に難しい。別の言い方をすれば、銀行の運用部長は「10年かけて成果が出ます!」というようなことをいわれても困るのである。

例えば、サイズ・ファクターのパフォーマンスは、分析期間の通期でみればパフォーマンスはよかったが、2011年から2015年までは非常に悪かった。このように悪い期間が5年も続く場合、銀行などの機関投資家はその投資を失敗とみなし、解約するだろう。

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そこで投資銀行はファクターが効くタイミングに合わせて戦略を推奨するということを一般的に行っている。例えば、「トランプ大統領が選挙に当選したので今後2-3年はレンジ相場ではなく、株式は上昇基調のモメンタムを持つだろう、逆に何かショックがあった場合は反転時には損失をこうむるかも知れないが、株価低下のモメンタムの恩恵を受けるのでいずれにせよ今が入り時である」という具合である。投資銀行は一般に収益が残高ではなく、取引のターンオーバーに依存するため、その時々で効果のありそうなファクターを推奨し、適宜入れ替えってもらったほうがビジネスとしてはありがたい。これは長期投資を善とし、収益が残高をベースである運用会社にはできない推奨方法である。

 

年金基金と機関投資家の違い2:運用モデルが異なる

 機関投資家の投資の意思決定の担当者と年金基金の投資の意思決定の担当者の仕事の性質上最も異なるのが、運用の委託を行うか否かという点である。年金基金の運用担当者は原則として運用のプロではないので、年金基金全体の方向性は決めるが運用に関しては原則外部の運用者に任せる。一方、機関投資家の運用担当者は彼ら自身が銘柄選定などの意思決定を行うため、外部運用を行うということは彼らのジョブセキュリティを奪うことになりかねない。そのため、特に機関投資家は外部のマネージャーが運用する投資信託やヘッジファンドの購入を行ってこなかった。結果として、機関投資家へのアクセスと言う観点では投資銀行に一日の長があり、また提供する金融商品もマネージャーなどの第三者の裁量が働かないものが採用されてきた。

 

以上2つの理由から、年金には運用会社と投資銀行が、機関投資家には投資銀行が中心となってリスク・プレミアム戦略運用が販売されるという構図が出来上がった。

最後に個人向けにもリスク・プレミアム戦略運用商品が提供されているので確認したい。個人向けでファクター・リスク・プレミアムの提供がなされているのは主にETF(上場投資信託)の形態である。「ファクター 、スタイル、ETF」でグーグル検索を行うとBlackRockなどが提供しているETFが確認できる。これらのサイトを見ると、個人向けには4大ミクロ・リスク・ファクターの提供が中心であることがわかる。

 

 

<本節の要約>
→リスク・プレミアム戦略運用の定義が定まらない理由は研究者、金融商品提供者、投資家においてそれぞれの定義が異なるからである。
→本書ではリスク・プレミアムの生みの親でもある研究者が使用する定義を使用したいと思う。