リスク・プレミアム戦略運用入門

銀行などで働いている金融のプロの方に向けて発信する『リスク・プレミアム運用』の教科書的ブログです。ご意見・コメントどんどんお寄せ下さいませ。

1-2 研究者から見たリスク・プレミアム戦略運用

 

本節では、研究者の観点からリスク・プレミアム戦略運用について解説する。運用においてアカデミックなバックグラウンドはあまり興味がないという運用担当者は読み飛ばしても差し支えはない[1]

 

[1] 経験豊富な運用担当者が、意図せずリスク・プレミアム戦略的な運用を行なうという例は良くあることであり、そのような運用者のほうが学術的なものを意識しない運用者よりもパフォーマンスが良い場合があることも事実である。

 

<本節の要約>
→リスク・プレミアムというコンセプトは、ウィリアム・シャープ(1990年ノーベル経済学賞受賞)らが構築した「資本資産価格モデル(CAPM)」において初めて使用されており、彼らがリスク・プレミアム戦略運用の生みの親ともいえる。
→リスク・プレミアムは、CAPMの類型であるシングル・ファクター・モデル及び発展型であるマルチ・ファクター・モデルにおいては、ファクター・リスク・プレミアムと呼ばれている。
→研究者が考えるリスク・プレミアムとは規則性をもったシステマティック・リスクに対する対価としての収益の源泉という意味をもつ。
→経済学においては、80年以上の実証研究が行われ、行動経済学的な裏打ちもある代表的な4つのファクター・リスク・プレミアムが存在する。

リスク・プレミアムというコンセプトの誕生

リスク・プレミアムという言葉が使われた最も古く著名な論文は、1960年代に定式化された「資本資産評価モデル(Capital Asset Pricing Model=CAPM)」においてであろう。CAPMはハリー・マーコヴィツによって1952年に導入された分散投資効果や平均・分散効用アプローチなどの基本概念をもとにJack Treynor,William Sharpe, John Lintner,Jan Mossion らが発展・完成させた。この偉業によりシャープとマーコヴィツは1990年にノーベル経済学賞を受賞している。[1]

CAPMから得られる重要な結論のひとつとして以下の関係式がある。

 

[1] リントナーとモッシンはすでに他界しており、トレイナーは初期の論文が発表されず受賞に値するとは認められなかった。

 

数式 1CAPMで定義されるリスク・プレミアム

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CAPMでは、上記の「市場期待リターン-無リスク金利」をリスク・プレミアムと呼んでいる。ここではじめてリスク・プレミアムというコンセプトが産声を上げることとなる。CAPMの意味するところを以下の事例で簡単に見ていく。

例えば、以下のように仮定した場合

  1. 現在の日本の無リスク金利を0%
  2. 市場期待リターンをTOPIXのリターン
  3. その場合、リスク・プレミアムは(2)よりTOPIXのリターンそのもの
  4. IT企業Aの感応度を2 、ガス会社Bの感応度を5

AとBの期待リターンはTOPIXの期待リターンによって求められる。仮に、TOPIXの期待リターンが10%であればIT企業Aの期待リターンは20%であり、ガス会社Bの期待リターンは5%となる。マイナス10%であればIT企業Aの期待リターンは-20%であり、ガス会社Bの期待リターンは-5%となる。

CAPMをシングル・ファクター・モデルで表すと図1-2のようなイメージとなる[1]。また、シングル・ファクター・モデルにおいてCAPMでリスク・プレミアムと呼んでいたものをファクター・プレミアムもしくはファクター・リスク・プレミアムと呼ぶ場合がある。そのため、本書では他のファクター・リスク・プレミアムと区別するために、市場ポートフォリオそのものをファクターとするファクター・リスク・プレミアムを「マーケット・ファクター・リスク・プレミアム」と呼ぶことにする。これに対して、たとえば、企業時価総額の割安度をファクターとするリスク・プレミアムは「バリュー・ファクター・リスク・プレミアム(もしくは単にバリュー・ファクター)」などと呼ばれる。

 

図 2シングル・ファクター・モデル

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[1] *CAPMとシングル・ファクター・モデルは厳密には異なるが、実質的には同じと考えてよい。

 

まず、この図が示す重要なポイントは

  1. ベータとはリスク量をあらわしており、リスクとはファクターに対するエクスポージャーである。つまり「ベータ=リスク=ファクターに対するエクスポージャー」という関係が成り立つ。
  2. 上記ではマーケット・ファクター・リスク・プレミアムはリスクの増加に対して比例する形で増加しているが、実際は観測期間によってはリスクの増加に対して減少しうる。

 特に2番目のポイントである「マーケット・ファクター・リスク・プレミアムはマイナスになりうる」という点は非常に重要である。マーケット・ファクター・リスク・プレミアムは(3)より、市場インデックスの ”無リスク金利に対する超過リターン” であるため、短期的に市場環境が悪い局面ではプラスもマイナスにも振れる可能性がある点には注意が必要である。[1]それ自体は市場ポートフォリオ、仮にTOPIXであれば、TOPIXがマイナスになりうることは誰もが感じられることだとは思うのだが、たとえば、前出のバリュー・ファクターがマイナスになりうるということを受け入れてもらうことが難しい場合がある。これは同様にファクター・リスク・プレミアムであるTOPIXがマイナスになるかもしれないということをいっているに過ぎない。この点は何度も出てくるので、ぜひともご理解いただきたいポイントである。

今後、ファクター・プレミアムもしくはファクター・リスク・プレミアムという言葉が頻繁に出るため、今一度この言葉について整理したい。

シングル・ファクター・モデルにおけるリスク・プレミアムとは

  • (市場ポートフォリオの)リターンである
  • (市場ポートフォリオに対するエクスポージャーを取るという)収益の源泉という意味で使われることがある

本来のCAPMもしくはシングル・ファクター・モデルにおいて、リスク・プレミアムは10%やマイナス10%などの数値である。

一方である証券のリターンが複数のリスク・プレミアムとその感応度であらわされるような場合、例えば今回は「このリスク・プレミアムが効いている(=貢献度が高い)」などという言い方が使われたりするが、この文脈では、収益の源泉という意味で使われている。この収益の源泉はリスク・プレミアム戦略運用において、規則性を持つシステマティック・リスクの対価であると考えられている。

 

CAPMの拡張:ラショナリストとビヘイビアリストの戦い

さて、CAPMにおいて、証券の期待リターンを市場ポートフォリオのリターン、感応度、無リスク金利という非常にシンプルなインプットで求めることができるCAPM及びシングル・ファクター・モデルは革新的なモデルである一方、CAPMの論文には二つの大きな批判があった。[2]

一つは、CAPMを提唱したシャープ自身も属する市場の完全性を前提としている派閥(彼らを経済合理主義者=ラショナリストと呼ぶ)からの「完全市場における真の『市場ポートフォリオ』という仮想物は、現実世界では観測不可能でありCAPMは理想論である」というCAPMの実証不可能性にフォーカスを当てたロールの批判である。

そしてもう一つは、「実際のマーケットにおいて、マーケットはシングル・ファクターでは説明できない事象が数多くある。例えば、小型株の相対リターンが高かったり、季節性などの影響があったりというアノマリー(経験則に基づいた法則)が見られ、CAPMの通りに株価期待値予想をすることは難しい」という批判である。

そこで、それぞれの批判に対しCAPMを支持する人達からは、CAPMの拡張や論理的背景についての補強がされた。その代表として、CAPMの前提条件を緩和することによりモデルの汎用化を試みた裁定価格理論(ARPと呼ばれる)やCAPMの拡張モデルとなるファーマ・フレンチの3ファクター・モデルがある。

一方、経済合理主義者ではない派閥では「行動ファイナンス」という分野に相当する研究によって論理的背景についての補強を試みた(彼らをビヘイビアリストと呼ぶ)。行動ファイナンスは、投資家の合理性の水準には一定の限界があるという考えから、CAPMではアノマリーが説明できないという批判をうけ、2002年にノーベル経済学賞を受賞したカーネマン達によって発見・研究された経済の一分野である。「行動ファイナンス」において、人々は常に合理的に行動するとは限らないというスタンスを取り、心理学を経済学理論の理解に援用するという点が画期的であった。例えば「株価は上昇トレンドが続いているから、まだ上がるはずだ!」というのは、経済合理主義者からみれば、全く理論的な裏付けがなく合理的ではないが、投資家がそのような心理バイアスを持ち投資活動を行うことは往々としてありうることなどが挙げられる。

CAPMの登場からファクター・リスク・プレミアム投資の興隆に至る過程で裁定価格理論の登場や行動経済学の発生と発展などの流れがあるが、そのような議論の外観をまとめると下記となる。

 

図 3CAPMからファクター投資への歴史

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[1] 以降で「小型株ファクター・プレミアム」や「バリュー・ファクター・プレミアム」など、さまざまなファクター・プレミアムの議論の中では、この点については議論しない。それは、「ファクターに投資していれば大丈夫」という議論は、シングル・ファクター・モデルでいえば、「株に投資しておけば大丈夫」というのと同様に不毛な議論だからである。あくまでも、リスク・プレミアム(もしくはファクター・プレミアム)のリターンは一定のリスクを取った結果であり、プラスにもマイナスにもなり得るという点は、建設的なファクター・プレミアムの議論のために繰り返し言及する。

[2] CAPMについては、その単純さから、まったく役に立たないという論もあるだろうが(それは実証されているともいえるが)、リターンがリスクに対する対価であるということのフレームワームを作ったという意味で偉大である。その偉大さに関する詳細説明について、本来であれば十分なページを割くべきであろうが、それは本書の目的ではないので割愛する。興味を持たれた読者にはAng (2016)をぜひご一読いただきたい。

 

ここではファクター・リスク・プレミアム戦略投資の興隆を促す最も大きなきっかけとなったCAPMの拡張モデルの一つである3ファクター・モデルを見ていこう。このモデルは2013年にノーベル賞を受賞したユージン・ファーマによって発表されたマルチ・ファクター・プレミアム・モデルの一つである。3ファクター・モデルが生まれた背景の一つに小型株効果がある。これは何かというと、長期的にみると小型株のほうが大型株に比べてパフォーマンスが良いというアノマリーである。このアノマリーの存在は、市場ポートフォリオの期待リターンとその感応度がわかれば、証券の期待リターンが予想できるはずであるというCAPMでは説明することができなかった。具体的なイメージとしては図1-4のような状態が発生していたということである。

 

図 4小型株効果

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 そこで、批判に対して「長期的にみた場合、大型株に比べて小型株のほうが、またグロース株に比べてバリュー株のほうが、パフォーマンスが良い」というアノマリーをモデル化し、説明を試みたのが、ファーマ・フレンチの3ファクター・モデルである。

3ファクター・モデルは以下のように定式化された。

 

数式 2 3ファクター・モデル

 

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 なお、ファーマ・フレンチは小型ファクター・プレミアムとバリュー・ファクター・プレミアムの計算において、市場にある銘柄を以下のように分類している。

 

  • 市場全体のポートフォリオを時価総額の大小で大型株と小型株の二つのグループに分ける
  • 市場全体のポートフォリオを時価簿価比率の高低で3つのグループに分ける
  • 結果として2x3の6マスのポート・フォリオ(PF)となる。そして時価簿価比率の下位30%をバリュー株とする。

この区分けを表にしたのが表1-1である。

 

表 1 ファーマ・フレンチの3ファクターモデル

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 ここで初めて登場するバリュー株に分類される銘柄の典型的な例を挙げると保有資金が現金で100億円あり、資産・負債がゼロなのになぜか株価が50億円の価値しかないといった、ネットキャッシュ銘柄等がある。

 ここで、もう少し具体的な各ファクター・プレミアムの計算方法について見ていこう、小型ファクター・プレミアムは、「大型株に時価総額加重平均ベースで投資したPF7」と「小型株に時価総額加重平均ベースで投資したPF8」のリターン差で求められる。すなわち

 

小型株ファクター・リスク・プレミアム

=PF8のリターン-PF7のリターン

 

となる。このようなリターンを出すときに二つのリターンの差(=スプレッド)をとることにより求める場合、このスプレッドをファクター・スプレッドと呼ぶ場合がある。

 

バリュー・ファクターに関しても同様に、PF9のリターン-PF11のリターンで計算できるので下記のように定義できる。

 

バリュー株・ファクター・リスク・プレミアム

=PF11のリターン-PF9のリターン

 

 説明を簡単にするために他の条件を同じだと仮定すると、小型株ファクターの関係は以下のように表現できる。

 

図 5 小型株ファクター・リスク・プレミアム

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 なお、Angによると1926年から2008年の82年間の小型株ファクター・プレミアムの値は年平均約2.28%であった。つまり、実証的にみても、小型株のファクター・リスク・プレミアムは市場ポートフォリオのリターンに加えて、リターンに対して正の貢献をしているのである。当然、短期的に見れば、小型株のファクター・プレミアムは、市場ポートフォリオのリターン同様、プラスにもマイナスにもなりうる不安定な値であることについては留意しておく必要がある。

3ファクター・モデルにおいて、大型株をショートし、小型株をロングするということは収益の源泉として見なされてきた。この収益の源泉そのものを小型株ファクターと呼ぶ。ラショナリストは、小型株ファクターの存在理由を「小型株は、一般的に流動性が低く、大型株に比べると高いドローダウン(損失)の可能性があるため、その損失のリスクに見合ったプレミアムが要求される」という投資家の合理性を前提に説明した。

一方、ビヘイビアリストは小型株ファクターの存在理由を「小型株に対して投資家が無関心だから、割安に放置されている」と説明する。このようにあるファクターの存在・発生理由についてラショナリストとビヘイビアリストは異なる論理展開を行うため、たびたび両者の間では論争が行われてきた。

ここで見逃してはいけないポイントは、収益の源泉と言う意味でのあるファクターの存在理由がラショナリストとビヘイビアリストにおいて異なっていても、両者ともにその経済市場の発生そのものは否定していないという点である。つまり、ここに小型株ファクターについての背景の説明をラショナリストにさせても、ビヘイビアリストにさせても、極端にいえば両者が喧嘩しようとしまいと、小型株効果自身はその存在自身が補強されることはあろうが、否定されることはないということである。むしろ、逆に、あるファクター・リスク・プレミアムが存在しているという議論があった場合、ラショナリストのみが積極的に議論に参加し、ビヘイビアリストがその議論に参加しないような場合はそのファクター・リスク・プレミアムそのものの存在に懸念が生じてしまう可能性がある。つまり、ファクター・リスク・プレミアムの世界においては両者が喧嘩すればするほど、ある意味でそのファクターの存在証明になると考えられる。

4大ミクロ・リスク・プレミアム

ファーマ・フレンチの3ファクター・モデルに代表されるようなファクター・リスク・プレミアムは1990年代のマルチ・ファクター・モデルの定式化やコンピューターを通じた情報処理能力の向上もあり研究が非常に盛んになった。結果として、無数のファクター・プレミアムが提唱された[1]。しかし、そのほとんどのファクター・プレミアムのリターンが長期的には高い確率でゼロ以下であるという主張がある。つまり、ファクター・リスク・プレミアムもしくは収益の源泉となりうるような投資手法は玉石混合であり、その大半は検討に値しないといえよう。しかし、その中でもその存在が確実視されている収益の源泉というものが経済学においては存在する。本節では、その代表例といえる経済学の歴史において十分な先行研究が存在する4つのファクター・リスク・プレミアムについて説明を行いたい。

本書では便宜上以降で説明する4つのファクター・リスク・プレミアムを4大ミクロ・リスク・プレミアムと定義する。「ミクロ」と称している理由は、一部の金融業界では狭義に個別株をあつかったものを「ミクロ」と呼んでいるからである。逆に「マクロ」は株式指数や債券、為替などの非個別株式資産クラスを扱ったものを意味する場合がある。例えば、債券・為替のトレーディング・デスクのことをマクロ・トレーディングと読んだり、個別株やシングル・クレジットのCDSなどを取り扱うトレーディング・デスクをミクロ・トレーディングと呼んだりする(特に前者は一般的かと思う)。余談であるが、ヘッジファンドなどでは、経済指標などのファンダメンタルズに基づいて取引を行うヘッジファンドの一群をマクロと呼ぶ。マクロ・ヘッジファンドは一般的に個別株を取り扱うことはない。

本書でもその定義に従い、個別株を投資対象としたリスク・プレミアムをミクロ・リスク・プレミアムと呼び、株式指数、債券、為替を投資対象としたリスク・プレミアムをマクロ・リスク・プレミアムと呼ぶ。繰り返しになるがこれらは本書における定義である点ご理解いただきたい。今後何度か出てくるが、あらかじめ本書の2章以降で取り扱う予定の4大マクロ・リスク・プレミアムも含めて一覧とすると表1-2となる。

 

表 2 4大ミクロ・リスク・プレミアムと4大マクロ・リスク・プレミアム

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[1] このように収益の源泉としてのファクター・リスク・プレミアムを誰もが発見・提唱した状態はファクター・ズーと呼ばれることがある

 

 

今後この図、およびこの図を拡張した図は非常によく出てくるのだが、今節では表の左側の4大ミクロ・リスク・プレミアムについて説明していく。

4大ミクロ・リスク・プレミアムについては、Goltz(2015)がまとめた優れた区分を使って説明を行いたい。なお、個別株を扱うミクロ・リスク・プレミアムは一般にファクターと呼ばれるため、本書では以降はミクロ・リスク・プレミアム、ファクター・リスク・プレミアム、(単に)ファクターはすべて同義であるとする。

 

表 3 4大ミクロ・リスク・プレミアム

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4大ミクロ・リスク・プレミアム(もしくは単に4大ファクター)は小型株ファクター、バリュー・ファクター、モメンタム・ファクター、低リスク・ファクターの4つである。

 

 4大ファクターは、他のファクターと比較して以下の特徴を持つ。

  • 80年以上という長期の実証期間に渡って検証されている。
  • 完全市場を前提とする経済学者(合理主義者)によって十分に研究され、リスクに対するプレミアムという観点から経済合理性があることが、論理的根拠と共に説明されている。
  • 行動ファイナンスをベースに論理展開を行う経済学者(ビヘイビアリスト)にも十分に研究されており、完全市場を前提とする経済合理主義者とは異なる論理的根拠が与えられている。

 

4大ミクロ・リスク・ファクターは②と③の両方の特徴を明確にもっているため、多面的にパフォーマンスの説明することができる。前節で述べたように、ラショナリストとビヘイビアリストの争いがあることがよいのである。

ファクター・リスク・プレミアムに対する理解を深めるために、こうした特徴を持つ4大ファクター・プレミアムについて、すでに説明した小型株・ファクターを除く3つのファクター・プレミアムについて、それぞれ詳しく説明する。

 

<バリュー・ファクター>

バリュー・ファクターは、バリュー株がグロース株に対してアウトパフォームする期待値がリスクに対して正であるプレミアムである。

Zhang(2005)によると、このプレミアムはビジネスの未熟度を表しており、「不況に代表されるような企業株価もしくは企業成長にとってマイナスの期間」におけるバリュー株のパフォーマンスがグロース株のパフォーマンスに比べ、より大きなマイナスとなるリスクに対するプレミアムである。

一方、行動ファイナンスの立場からバリュー・ファクターを説明すると、Daniel et.al などの「投資家は自分で手に入れた情報に過度な自信を持つため、バリュー株には無関心である一方で、情報の手に入りやすいグロース株が割高になる傾向がある」という説明が適切であろう。

 

<モメンタム・ファクター>

モメンタム・ファクターは、高リターン基調株の期待リターンが低リターン基調株の期待リターンをアウトパフォームすることを指すファクターである。

経済合理的な観点ではLo et.al (1999)による「変動率は現時点に近い変動率ほど影響を受けるため、短期的な変動率の拡大がより大きなリスクをもたらした結果、上昇(下落)基調株のパフォーマンスがレンジ内の値動きの株に比べて、より大きなマイナスとなるリスクに対するプレミアムである」と説明される。

行動ファイナンスの立場からはDaniel et.al(1998)などが「自分の購入した株に関係する良いニュースを意思決定に積極的に採用し、悪いニュースはその脅威を甘く見積もるというバイアスが、価格変動性の継続を促すことから生じている」としている。このような認知バイアスを「自己奉仕バイアス」と呼ぶ。

 

<低リスク・ファクター>

低リスクは、低リスク株が高リスク株をアウトパフォームするというアノマリーのことである。Frazzini et.al(2014)は「低リスク株は一般にレバレッジをかけて投資する可能性が高く、市場急変事には流動性が著しく低下し、低収益となるリスクがあるため、低リスク株は市場急変事などにより、高いボラティリティ株に比べ、より大きなマイナスとなるリスクに対するリスク・プレミアムが発生している」としている。

行動ファイナンスの立場からはBarberis et.al. (2008)が「高ボラティリティ株が高収益をもたらす可能性が高いと感じている一部の投資家のために、高値となる可能性がある」と指摘している。このようにリスクが高いほど魅力を感じる心理を「ロッタリー(宝くじ)効果」と呼ぶ。

 

以上、非常に簡単ではあるが、学術的に先行研究が充実している4つのファクターについて説明した。4つのファクターは全て個別株投資のファクターであるが、一部はAssnessやFrazzineなどによって債券などへの応用もされている。